僕の見たシンガポール

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本当のことを言えない消費者―現場で起きていること

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仕事において、現場を見ることが大切ってよく言いますよね。机の上だけの綺麗事では通用しないとか。答えは現場にあるとか。
 
個人的にもその「現場の大切さ」は実感していますし、その大切さは色々なところで語り尽くされてるんですが、今回は、その中でも、興味深かったお話を書きたいと思います。
マルコム・グラッドウェルの書いた「第1感 最初の2秒のなんとなくが正しい」という本から、簡単に引用しますと、

 

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

 

 

ジャムについての感想さえ、言葉では説明できない。
 
どのジャムがおいしいか無意識のレベルではわかる。でもなぜそう思うのか、しかるべき言葉で説明しろと急に言われても、その言葉の意味がわからない。
 
 私たちはあるものをなぜ好きなのか、あるいは嫌いなのかについてもっともらしい理由を思いつき、本当の好みをその理由に合わせてしまう傾向がある。
 
たとえば食感、いったいどういう意味だろう?これまでジャムの食感について考えたことなんてないかもしれないし、そもそも深いレベルではあまり気にしていない特徴なのかもしれない。
 
だが今、食感という概念が意識に加わった。食感について考えてみて、ちょっと変かもしれないと判断する。もしかするとこのジャムはおいしくないのかもしれないと思う。 

 

つまり、人間の判断は、五感を総動員して直感で行われるが、その判断を素人が言語化しようとすると、その直感の感覚が失われるし、また直感とは異なる判断を下してしまうことがある、ということです。
 
より簡単に言うと、普通の人に「なんで買ったの?」と理由を聞くと、ちゃんと説明できないし、その上、好き嫌いの順番も変わってしまうということです。
 
一般の購買行動で、特に食品や消費財では、そんなに熟慮しながら選択をしている人なんてほとんどいません。「なんとなくこっちがよさそうだから」という理由で直感で判断を下しています。
 
そこの理由をしっかりと説明してもらおうと深堀をしていくと、消費者はうまく表現をできず、無理やり理由を作ってしまうわけです。その上、その作ってしまった理由に合わせて一貫性があるように判断を修正していきます。
 
これは、「影響力の武器」という本にある「一貫性の原理」というやつでして、人は自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものとしたいという心理が働き、行動に影響を及ぼすというものですね。
影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

 

 

例えば、A・B・Cの3つジャムを食べてもらう消費者調査を例にあげるならば、下記のようになります。
 
 
消費者「Aのジャムが一番美味しい!」(直感)
 
インタビュアー「そう思われた理由をお教えいただけませんでしょうか?」
 
消費者「えーっと、うーん、、、食感、、、そう、食感だね。食感が滑らかだから!(うん、きっとそうだ!)」
 
インタビュアー「次に美味しかったジャムはどちらになりますか?」
 
消費者(Bの方が美味しかった、、、けど、さっき理由に上げた食感のことを考えると、BよりCの方が滑らかだから、、、(無意識に)) 
 
消費者「Cが次に美味しくて、Bが一番最後ですね。理由はCの方が滑らかな食感を感じるからですキリッ」 
 
 
例えばこの消費者はAのブランドを昔から使っていて愛着があり、それゆえに美味しく感じていたりするにも関わらず、無理にその理由を食感と結びつけてしまう、ということが起こるわけです。
 
その上で、この消費者調査の報告書やサマリーは、素直に書けば下記のようになるはずです。
 
「ある消費者はジャムを選ぶための選択基準として、食感が第一とあげている。それゆえ製品Aがクオリティが最も高いと判断され、その次はC、Bの順であった 」
 
このとき、現場に行かず報告書やサマリーだけで判断をしていると、上記を見て、「よし、より滑らかな食感のジャムを開発しよう」とかなってしまったりするわけです。 悲惨です。
 
それを防ぐためにも、この原理を分かった上で、現場に趣き、消費者の発言を鵜呑みにするのではなく、「この人はなんでこういうことを言っているのだろう」「真意はどこにあるんだろう」ということを考えながら対話をしていくことで、正しくニーズを理解でき、意味のある提案に繋げることができるわけです。
 
逆を言えば、現場に行って単純に話を聞けばいいってわけでもない、ということですね。