Google Xに学ぶイノベーションを生む評価の仕方 リーダーと失敗論 その2
前回の続きです。
組織にとって、失敗とは下記の2種類に分けられる、という話をしました。
- 組織が答えを知っていることに関する失敗
- 組織が答えを知らないことに関する失敗
今回は2点目の失敗に関してです。
前回も言いましたが、つまりこれは組織が新しいビジネスや手法を切り開くための、組織の学びとしての失敗ということですね。
言うまでもなく、イノベーションが不可欠なこの時代に、このタイプの失敗が重要なことは間違いありません。
イノベーションを生むためにも、リーダーであるあなたは是非とも「失敗を恐れるな!」「ガンガン失敗していけ!」と推進していかなければならなそうです。
でも、残念ながら部下はそういう風には動いてくれません。
当たり前ですが、誰だって失敗したくない
自動運転車を始めとするイノベーションで知られる、X(Google X)のCEOのAstro TellerがTED Talksで下記のように語っています。
壮大でリスクの高いことに野心的に取り組むというのは、そもそも人を不安にさせるものです。
怒鳴りつけて早く失敗するよう強いることはできません。抵抗するでしょう。彼らは心配します。
「失敗したらどうする?」 「笑われるんじゃないか?」 「クビにならないか?」
そもそも、ホリエモンの宇宙ロケット開発もそうですが、壮大でリスクの高い、イノベーションの元となるようなことは成功確率が高くありません。
前回も言ったとおり、組織人であるかぎりは結果を出さなければいけないのですが、それは部下ももちろん同じで、成功する確率の低いものにはそもそも尻込みをするものです。
これは、ピクサーのEd Catmullも同じようなことを、著書「ピクサー流 創造するちから」で語っています。
失敗は精神的に大きなダメージとなる 。その原因は、学校時代にさかのぼるのではないか 。
人は早くからそのメッセージを頭に叩き込まれる。
つまり、失敗はいけないこと。失敗は勉強不足や準備不足の証。失敗は怠けた証拠、または、そもそも頭が悪いから!だから失敗は恥ずかしいことだ。
大人になってからもずっとそう思い込んでいる。誰かが言った失敗することのメリットを受け売りする人でさえそうだ。
そのテーマを扱った記事はごまんとあるが 、読んだ人は納得したようにうなずきながら、心は子どものころと同じ反応を示す。
自分ではどうしようもできない。若いころの恥ずかしい経験は拭い去れないほど深く心に刻まれている。
私は、社員が失敗を嫌い、何とか回避しようとするのをずっと見てきた。
何を言ってもだめで、まちがいを恥ずかしいものと思い込んでいる。本能的に失敗すれば傷つくという反応になっている。
(略)
恐れから失敗を避けようとする組織文化では、社員は意識的にも無意識的にもリスクを避ける。
そして代わりに、過去にやって合格点だった安全なことを繰り返し行おうとする。その成果は派生的なものであり、革新的なものではない。
長期的に結果を出すために、イノベーションが必要であり、
そのイノベーションを起こすためには、短期的な失敗を厭わず挑戦する必要がある。
と、いうのをたとえ頭で分かっていたとしても、失敗というものに対しては尻込みをするものです。
なぜなら、人というものは前にも書いたとおり、長期的な利益よりも、短期的な誘惑に極端に弱いからなのです。
「10キロダイエットするぞ!」「禁煙する」……人は様々な誓いを立てて、そして守ることができません。だれもが「我慢できない自分」と「論理的で、辛抱できる自分」の内なる闘争をくりひろげています。
なぜ人は目標が達成できないのか。それは、生物が長期的な利益よりも、短期的な誘惑に極端に弱いからなのです。
- 作者: イアンエアーズ,Ian Ayres,山形浩生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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ではどうしたらいいんでしょうか。
評価軸を変えることで行動が変わる
ワンナウツという漫画に、こんなシーンがあります。
最強球団であるマリナーズ打線との対決で、萎縮しているチームに対して、主人公である渡久地は、「勝敗は気にせず、ボール1つにつき罰金100万、キレのいいストライクであれば罰金50万」というルールを儲けます。
なぜならば、バッターに恐怖をしてボール球を投げてしまうことが、マリナーズ打線の出塁率を助けていることを見抜いたからです。
その結果…
キレのいいストレートを投げることだけに集中した結果、ボール球を投じることなく、マリナーズ打線を封じ込めることに成功しました。
と、まあこれは漫画なんですが、ここで、「打たれても(=失敗しても)いいからストレートを投げろ(チャレンジをしろ)」と言っても、打たれるのが怖いピッチャーはストレートを放りませんよね。
打たれて、防御率が下がったら、最終的には減俸や仕事を失う可能性があるからです。
そこで、ここでは評価軸を「被安打」や「防御率」から「キレのいいストレートを投げること」だけに変えてあげたところ、ピッチャーはそれに従って行動をしたというお話です。
組織の人間の行動は、基本的にはその組織で評価される行動に従う傾向があります。そりゃ、人間誰しも評価されたいですからね。
つまり、失敗への恐怖を取り除くためには、評価基準を変えてあげる必要があるということです。
社員の評価において、私は徹底的な加点主義なんです。減点主義は一切取っていません。
つまり、失敗してもいいんです。加点主義だから良いことをやればプラスですし、失敗してもマイナスにはならない。
(中略)
一番ダメなのは、チャレンジしないこと。ダメな経営者も同じで、失敗を恐れてリスクをとりたがらないですよね。
つまり、失敗を恐れない社員を作る一つの方法は、日本電産で行っている通り、徹底的な加点主義にするということ。
それによって、社員は結果を出すために、果敢な挑戦も厭わないということです。
もうちょっと極端な例として、Xはさらに一歩進んだアプローチを取っているようです。
みんなが壮大でリスクの高いことや野心的なアイデアに取り組み、問題の一番難しい部分に最初に飛び込むようにさせる唯一の方法は、その道を一番選びやすくすることです。
Xでは安心して失敗できるようにすべく努力しています。チームは駄目な証拠が見つかり次第、すぐアイデアを捨てますが、それは、そのことによって評価されるからです。
同僚から喝采されます。上司からハグやハイタッチを受けます。特に私から。それによって昇進します。プロジェクトを終わりにしたチームの1人1人がボーナスを受け取ります。2人のチームから30人以上のチームに到るまで。
つまり、「失敗をすることを評価しない」のではなく、彼らは「すぐに失敗をすることを評価している」というわけです。
なぜ、こんな極端なアプローチを取っているのでしょうか。
ホリエモンのロケットの失敗例がありましたが、数億円から数十億円つぎ込んだロケットを「失敗を恐れない」社員が毎週爆破していたら、どれだけお金があっても足りません。
つまり、当たり前ですが、失敗は奨励しつつも、一方で組織への失敗のダメージを最小限にする必要があります。
つまり、早い段階で、大きな投資をしてしまう前に判断をしてあげなければいけません。そのために、小さいスケールでのテストなどが重要になってくるということでしょう。
要するに、リーダーとして大切なことは、
- 部下が失敗を恐れずチャレンジするように評価を変えてあげること
- 一方で失敗の損害を最小限に抑えること
という2つの難易度の高いことを両立させることですね。