僕の見たシンガポール

シンガポールから思ったことを日々更新していきます。

アイスバケツチャレンジと三島由紀夫と僕らに必要な寛容さ

でもね、もっと驚かないといけないのはね、一人の人間が、本気で伝えたいことも伝わらない、っていうこの事実ですよ。

 

前回、僕がアイスバケツチャレンジを受けたわけという記事で触れた#icebucketchallengeこと、アイスバケツチャレンジですが、NPO法人フローレンス代表理事の駒崎さんがこのようにつぶやいていました。

僕はこれに完全に同意でして、チャリティなのにも関わらず、ものすごい量の人と金を動かしたという点で、アイスバケツチャレンジは圧倒的に優れている活動だと思うわけです。

 

そもそも、見ず知らずの人に思いを伝えて動かすというのは非常に難しいことです。 アイスバケツチャレンジが回ってきた時に思い出したセリフは、前回も書いたとおり、伊坂幸太郎の「砂漠」に出てくる西嶋のセリフでしたが、はじめにアイスバケツチャレンジを知った時に浮かんできたセリフも、この西嶋のものでした。

 

三島由紀夫に関して話しながら)「事前に新聞社に遺影を配ってたから、覚悟してた、って言う人もいますけどね、俺は、たぶん最後まで信じてたと思うんですよ。自分で本気を出して行動すれば、もしかすると、世界は動くんじゃないかとね、期待していたと思うんですよ

「でも、駄目だった」

「『やっぱ駄目かあ』とは思ったんじゃないですか。で、自決ですよ」

「西嶋には、三島由紀夫の気持ちが分かるんだ?」

「そこまでして何かを伝えようとした、という事実が衝撃なんですよ。しかも伝わらなかったんだから、衝撃の二乗ですよ。別に俺は、あの事件に詳しいわけじゃないですけどね、きっと、後で、利口ぶった学者や文化人がね、あれは、演出された自決だった、とか、ナルシシストの天才がおかしくなっただけ、とかね、言い捨てたに違いないんだけど、でもね、もっと驚かないといけないのはね、一人の人間が、本気で伝えたいことも伝わらない、っていうこの事実ですよ。三島由紀夫を、馬鹿、と一刀両断で切り捨てた奴らもね、心のどこかでは、自分が本気を出せば、言いたいことが伝わるんだ、と思ってるはずですよ。絶対に。インターネットで意見を発信している人々もね、大新聞で偉そうな記事を書いている人だって、テレビ番組を作っている人や小説家だってね、やろうと思えば、本心が届くと過信しているんですよ。今は、本気を出していないだけで、その気になれば、理解を得られるはずだってね。

でもね、三島由紀夫に無理だったのに、腹を切る覚悟でも声が届かないのに、あんなところで拡声器で叫んでも、難しいんですよ」

砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

 

冒頭の駒崎さんのツイートにもつながりますが、特にチャリティ関連の行動を促すことは、それこそ必死の形相で叫んでも、腹を切る覚悟でも伝わらないことが多いわけです。

そんな中、これだけ、多くの人たちを動かしたというのはもうそれだけで脱帽ものでして、「不謹慎」とか「間違ったアプローチだ」という非難も各地で噴出してますが、チャリティというものの難しさを考えるに、ある程度そこは許容せざるを得ないところだと思います。

 

チャリティにおける心理的な壁とその乗り越え方

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そもそも、人は新しい行動をとることに対して必ず心理的な壁が存在します。

その壁の高さを「行動をとる」という意志の力、エネルギーが上回ったときに、実際に行動が起こされるわけです。

 

例えば、ダイエットしたいなあと思うことと、ダイエットを実際に行うことの間には、かなりの大きな違いがあることは実体験で分かってる方は多いと思いますが、「めんどくさい」「辛い思いをしたくない」という心理的な壁を、エネルギーが越えられないと実際に行動はどれないわけです。

 

なので、人を動かそうと思ったら、心理的な壁を下げてあげるか、もしくは乗り越えるエネルギーが出る(あるいは出さざるをえない)状況を作ってあげるか、をするしかありません。

 

ダイエットで言うならば、負荷のかからないウォーキングから始めるとか、もしくは周囲に宣言してやらざるを得なくするか、とかそういったアプローチに当たります。

 

チャリティはそもそも、その特性上、「やっていることは賛同するけど、自分には直接関係しない(ので、わざわざ行動をしたくない)」という大きな心理的な壁が存在しますし、「偽善っぽくて嫌」「ちょっと胡散臭い」という壁もついて回りがちです。

さらには、人間には「一貫性の原理」という「自身の行動、発言、態度、信念などに対して一貫したものとしたいという心理が働く特性」を持っています。なので、多くの他のチャリティと同じようなアプローチだったら、「前のところには寄付をしなかったのに、今回寄付をしてしまうと説明がつかなくなる」という心理によって、寄付を断りやすくなります。1度寄付をした人も、「このままだと永遠に寄付をし続けないと説明がつかなくなる」と思うため、どこかで寄付をやめてしまうわけです。


なので、行動を促すチャリティは、今までのものとは根本的に全く違ったやり方で、一貫性の原理の心理的な壁を取り除いてやる必要があるわけです。

 

海外の優れた事例を見ても、斬新なやり方で心理的な壁を取り除きながら、かつアクションにエネルギーを使わせないものが多いですね。

 


THE SOCIAL SWIPE

これは、見ていただければ分かりますが、手持ちのクレジットカードを、街角のデジタルサイネージのカードリーダーに通すことで寄付ができる面白い仕掛けです。

カードリーダーに通す動きが、パンのカットになり、手首に締められたロープを切り落とす役割だったりと、自分の行動がダイレクトに貢献しているように映像を通じて感じさせ、心理的な壁を乗り越えるモチベーションを高めているわけです。英語ですが、映像だけでも楽しめると思います。

 


Donating 2-Barcode Water

韓国では89%の人が寄付に前向きでしたが、実際に寄付したことがあるのは0.2%の人に過ぎない、という現状を踏まえて生まれたキャンペーンです。

ペットボトルの水にわ2つのバーコードをつけて、1つのバーコードをスキャンすると、他の商品と同じように水の代金である1ドルがレジに表示されます。そして、もう一つの水をかたどったバーコードをスキャンすると、アフリカの子どもたちにきれいな水を届けるための代金10セントが追加され、1ドル10セントが商品の値段になるわけです。

 アクションが圧倒的に容易なため、心理的な壁が低いですよね。

 

と、いうわけで、アイスバケツチャレンジは色々非難もありますが、あの形に落ち着いたのは仕方がなかったわけです。心理的な壁というやつのせいで、奇抜にならざるを得なかったわけで。


なので、今後も新しいチャリティの形が生み出されてくると思いますが、多少奇抜になるのはしょうがないと目をつぶる寛容さが大事なんじゃないかなと思うわけです。