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妖怪ウォッチとジバニャンに学ぶ現代版イノベーションのジレンマ

ジバニャンをご存知でしょうか?

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「妖怪ウォッチ」という今小学生の間で爆発的なブームを引き起こしているゲームのキャラクターです。

簡単に言うと、ポケットモンスターピカチュウみたいな感じなんですが、今や小学生の間ではピカチュウを追い抜いてダントツの人気のようです。

僕は、ポケモンもやらずに育った世代ですし、今はゲームもやらなくなってしまったので、個人的には「ピカチュウの方がかわいいと思うけどなあ」くらいの感想なんですが、改めて見てみると、この妖怪ウォッチのブームにはイノベーションのジレンマについて学ぶところが非常に多く、MBAの教科書に載ってもいいんじゃないかと思う事例なんじゃないかと感心させられました。しかも、これは本に書かれていたのとは少し違う、現代版イノベーションのジレンマと言える面白い事例だと言えます。 

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

 

 と、いうことで、今回は「妖怪ウォッチとジバニャンに学ぶ現代版イノベーションのジレンマ」です。

 

優良企業は既存顧客のニーズに答える持続的イノベーションしか生み出せない

そもそも、ポケモンというのはお化けのようなメガヒットコンテンツです。Wikipediaによると、

2011年現在で同タイトルを冠したゲームソフトの販売本数は、全世界で2億3000万本以上に達する。本シリーズのみの場合は2011年時点での最新作、ニンテンドーDS『ブラック・ホワイト』までの19作品で1億6000万本以上となる。これはRPGシリーズとしては世界一の販売本数である。この数字をゲームキャラクター毎のシリーズ別で比較した場合、世界第2位の数値であり(1位はマリオシリーズの2億6000万本以上)、1996年のソフト発売以来、ゲームを含めた関連市場(いわゆるポケモン市場)の誕生からの累計総売上は国内約1.8兆円、海外約2.2兆円、世界累計約4兆円という報告がある。

この4兆円がどんなものかというと、発売から比較して、世界で一番幸せな国として有名なブータンGDPの3倍稼いでいるという圧倒的な売上高です。任天堂にとって、圧倒的なお化けコンテンツ、それがポケモンなわけです。そりゃ、株式会社ポケモンという別会社も設立するわけで。

 

こんな状況ですから、膨大な既存ユーザーのことを考えると、どうしても任天堂としては、前作の良い所は踏襲しつつ、より既存ユーザーを満足させる「持続的イノベーション」に力を入れざるを得ないわけです。「モンスター総入れ替えで、ピカチュウもう出てきません!」みたいなことは出来ないわけです。

 

新規ユーザー・ライトユーザーが離れていく

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その結果、何が起きるかというと、こういったサービスやコンテンツ事業の場合は、新規ユーザー・ライトユーザーにとっては、どんどんハードルが高くなるわけです。

 

育成・対戦システムは戦略性を増してより複雑に、モンスター数は気づいたら700を超え、お金もゲームにかける時間も親の制限なくできる熟練のユーザーたちがゴロゴロいる、という状況で、あなたが小学生だったらやりたいですか?

 

これは、Webサービスとかでも同じで、例えばFacebookとかは、自分の親とかがたくさん登録していて気兼ねない投稿ができない、さらに、余分な機能もたくさんついていて複雑になってしまっている、そんな状況では、小さなコミュニティの仲間同士でシンプルにメッセージのやりとりを楽しみたい若者たちは「なんかしっくり来ないな」と思うわけです。

 

これをイノベーションのジレンマでは「優良企業の持続的イノベーションの成果が顧客のニーズを超えてしまう」と表現しています。

 

破壊的イノベーションというほどでもない、満たされないニーズに特化したライトなイノベーションが市場を作る

イノベーションのジレンマでは、こういう状況では、破壊的イノベーションが市場を結果的に席巻すると言われています。メインフレームコンピュータがミニコンピュータに「破壊」された、というのは有名な事例ですね。最近ではスマートフォンとかがいい例でしょうか。

 

しかし、現代のサービスとかコンテンツ事業では、正直そんな破壊的イノベーションがビジネスを塗り替えるなんてことはあんまりありません

 

それよりかは、現状の持続的イノベーションで膨れ上がったサービスでは「しっくり来ない」層のニーズをダイレクトに応えるライトなイノベーションが求められるわけです。

 

そのライトなイノベーションこそが、まさにポケモンに「しっくり来ない」小学生若年層に向けた妖怪ウォッチだったわけです。

妖怪ウォッチは第2のポケモンになれるのか? [ゲーム業界ニュース] All Aboutという記事に細かいことは書いてありますが、

妖怪ウォッチのバトルは自働で妖怪達が攻撃してくれて、アイテムや必殺技を使う時など、限定的にプレイヤーが干渉する半オート。対戦や育成の要素もありますが、ポケモンほどの複雑さは持ち合わせていません。

もっとも、それが悪いというわけではなく、前述しているようにより小さな子どもが遊ぶことを想定して、シンプルで遊びやすい設計にしてあるということなんですね。必殺技を放つ時は、タッチペンで画面をグルグルと回したりと、楽しいギミックも搭載。子どもたちが必死になって「うおおおおお」と画面をグルグルやるわけです。

簡単かつ、楽しく、複雑になりすぎない要所要所でプレイヤーの判断を必要とするバトルシステムは非常によくできていますし、ターゲットをしっかりと想定して作り込んである印象です。だからこそ、ポケモンとは違う、ということですね。

全く新しい、今までにない破壊的イノベーションというわけではありません。傍から見たら「ポケモンの二番煎じちゃうの」という感覚ですが、まさに、ターゲットに向けたライトなイノベーションという感じですよね。

 

これは、前述のFacebookに置き換えるならば、Facebookでもメッセージのやりとりもできるけれど、もっとシンプルに「仲間同士で気兼ねなく楽しくメッセージをしたい」というニーズに答えられるライトなイノベーションのLINEが市場を作るわけです。

 

既存サービスは破壊され尽くさない

一方で、ミニコンピュータやスマートフォンといった破壊的イノベーションと違って、こういったライトなイノベーションは既存サービスを破壊し尽くしません。多少、破損をすることはありますが、既存サービスがしっかりと既存ユーザーのニーズを捉まえている限りは、別な言い方をすると、ライトなイノベーションに持って行かれなかったニーズにしっかり応えている限りは、2つのサービスが両立していきます。

 

そういう意味では、妖怪ウォッチとジバニャンは破壊的イノベーションではなく、ポケモンピカチュウが完全に駆逐されるということは少なくとも当分の間は起こらないんじゃないでしょうか。妖怪ウォッチは小学生向けの定番になるかもしれませんが、もう少し複雑なゲームを求めるようになって来たならばポケモンを遊びだす、というように妖怪ウォッチとポケモンの住み分けは続くように思います。

 

先ほどのFacebookとLINEを見てみても、「Facebook離れ」とは言いますが、みんな目的に応じて2つのサービスをうまいこと使い分けているのが現状ですよね。

 

新しいサービスを考える、もしくは評価するときには

これらを考えると、新しいサービスを考える、もしくは評価するときには次のコメントは注意しなければいけません。

 

「既存の○○ってサービスで、それできるよね。何が違うの?」

 

既存のサービスでできることを提供していたっていいんです。焼き直しだっていいんです。

 

ポケモンと何が違うの?ふーん細かいところは変えたみたいだけど、一緒だよね」

Facebookでもメッセージのやりとりってできるじゃん?」

 

妖怪ウォッチやLINEの企画案を見た時に、そういった反応をしてしまって、ボツにしてしまいそうですよね。

 

でも、既存の人気サービスでは「しっくり来ない」層を狙った、ライトなイノベーションが市場を作っていくわけです。

 

そういう意味では、新規サービスの立ち上げの方法としては、まず、既存の人気サービスで「しっくり来ない」ニーズはどこにあるかというのを考えるのは1つの面白い方法ですね。