僕の見たシンガポール

シンガポールから思ったことを日々更新していきます。

結婚という甘美な毒

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友人の結婚式の度に日本を往復して10万円費やすタケナカです。こんにちは。

いや、不満はないんですよ!海外に住んでいるこんな僕を呼んでくれるだけで嬉しいんです。だから呼ばれたら1泊3日でもがんがん行きますし、話題のマレーシア航空で行方不明も恐れず飛び立つのです。だから、せめて二次会の会費はただにしてほしいなあ。

 

と、まあそんな思いの丈をぶちまけたところで、今日は結婚についてお話したいと思います。シンガポールのロマンチストとしては、結婚のよさを滔々とここで語るということもできるのですが、ここでは、前回の「シンガポールの移民政策と日本はどうなのよ - 僕の見たシンガポール」の続きをちょっと話したいと思います。

 

前回、人口ボーナス・人口オーナスというお話をさせていただきました。

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・人口ボーナスは一国に一度きりしか訪れない高度経済成長のチャンス。
・人口ボーナスが終わると、少子化とベビーブーム世代の高齢化がもたらす人口オーナスとの戦いで成長できなくなる。
・つまり、人口ボーナス期に確立した国の豊かさが、その国の繁栄の頂点となり、あとは衰退する。

 

ここで、ふと疑問がおきますよね。

 

なんで人口ボーナスは「一国に一度きり」なんでしょうか。なぜ、少子化と高齢化は必ず訪れるんでしょうか。

 

選択のパラドックス

諸説は色々とあると思いますが、一つの答えになるのは、TEDにあるBarry Schwartzという人の"The Paradox of Choice"というスピーチだと思います。個人的にはこれは数多あるTEDのスピーチの中でも5本の指には間違いなく入るものだと思っています。

まあとにかく見ていただきたいところではありますが、ここで簡単にまとめると、

  • 産業社会の発展により、選択肢が増えて、個人の自由度が増大してきている。
  • ただし、これは必ずしもいい面ばかりではなく、悪い面も非常に大きい。ここでは以下の3つ

 

  1. "Paralysis":選択肢が増えすぎるとどれを選んでよいか分からず、選択自体ができなくなる。
  2. "Opportunity Cost":選択をした後に、選ばなかった選択肢のことを考えてしまい、自分の選択に満足できなくなる 。
  3. "Escalation of Expectation":多くの選択肢があることにより、期待値が増大をし、やはりくだした選択に満足できなくなる。

という趣旨です。(最後に収入の再分配について話していたりしますが)

 

結婚における選択のパラドックス

つまり、人口ボーナスによって経済が成長し、物質的にも情報的にも豊かになってくると、個人が選択をできないし、選択をしても満足できない時代がやってきます。

これは結婚に関しても同じです。経済が豊かになってくると、2つの意味で選択肢が圧倒的に増えます。それは、自由恋愛という結婚相手の選択肢と、「結婚・出産が先か、キャリアが先か」という生き方の選択肢です。

 

日本も昔はお見合いで結婚相手を決めていましたし、もっと遡れば相手も見ずに親が結婚相手を決めていたなんて時代もありますが、いまはもう猫も杓子も自由恋愛の時代です。

つまり、無数の選択肢から伴侶を探す時代、言い換えると「無数の選択肢の中からベストだと思える人を見つけなければいけない時代」となっています。(就活とかもまさに同じ構図ですよね) 

そこでしっくり来る人が見つからない、もしくは覚悟が決められない人はどんどん結婚が遅れることになります。さらに、選択のパラドックスで、いざ結婚をしたものの、その選択に満足できず、結婚に不満を抱きやすくもなります。もしかしたら、テレビで見ているアイドルと付き合えるかもしれない時代なんですから。

 

さらに、先程も書いたとおり、女性も社会進出が進んでいくと、特に出産はキャリアの断絶に成り得ますので、タイミングに関しては慎重にならざるを得ません。「女性は家庭に入って、子供をたくさん生むのが幸せ」という価値観のみの選択肢がない状況に比べたら大きな違いです。

「人は判断力の欠如で結婚し、忍耐力の欠如で離婚し、記憶力の欠如で再婚する Marriage is the lack of judgement, divorce the lack of patience, and remarriage the lack of memory」というフランスの劇作家の有名なお言葉がありますが、現代はまさに正しい判断をしようとしすぎると、結婚しづらい時代になっていると言えるでしょう。

 

こうして、晩婚化と少子化は、こうして先進国で歯止めが利かなくなり、豊かになればなるほど成長が止まる、という状況に陥るわけです。すなわち、この「選択のパラドックス」という性質を持っている以上、結婚が繁栄のブレーキになるというわけです。

 

でも結婚って必要ですし

ただ、結婚という仕組み自体は人間が繁栄していく上で必要不可欠なプロセスだと思っています。

 

子育てに長い期間を必要とする人類は、その期間をお互いにコミットするという結婚という契約がなければ安心して出産もできないでしょう。

また、何よりも、性欲のような低次な(ただし巨大な)欲求に惑わされずに、より高次な欲求に挑戦していくためにはなくてはならないものです。結婚相手が見つからないと、いつまでも合コンに時間とお金を費やして、「運命の人はいねーがー」と六本木や歌舞伎町をなまはげのように徘徊し続けなければいけません。

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つまり、まとめると、人間は結婚という仕組みによって繁栄し、また、その結婚という仕組みが足かせになって、ある一定のところで絶対に繁栄に歯止めがかかるという非常に皮肉な構造になっているわけですね。

 

それを考えると、結婚とは、誰かが人類に仕込んだ甘美な毒のように思えてくるのです。